人と人を繋ぐ ─ バリスタ・鈴木岳之さん

 ヒューマンインタビュー第2回は、バリスタ・鈴木岳之さん。



 駒込のカフェ「MIDDLE GARDEN COFFEE STAND」でバリスタを務める鈴木さん。その焙煎風景を見せていただきました。
 

「これが、生のコーヒー豆。薄緑色をしていますよね。コーヒーの実は、さくらんぼみたいな感じで、僕たちが〈コーヒー豆〉と呼んでいるのは、さくらんぼの種の部分にあたるものなんです。今日焙煎していくのは、アンティグアのアゾテア農園産のグァテマラ。シャープな味わいが特徴です」

 
 コーヒー豆を優しく眺めながら、鈴木さんは柔らかい声で語ります。
 

「コーヒーの流行の中で、サードウェーブって耳にされたことがあると思います。コーヒーの歴史の中では、今まで3つの〈波〉がありました。最初が、大量生産・大量消費のコーヒー文化。生産量が増え、流通の技術も上がり、一般家庭でもコーヒーの消費が増えていった時期です。次は、スターバックスなどに代表されるシアトル系が牽引して、コーヒーの楽しみ方をスタイリッシュなイメージにした時期。コーヒーの品質にも目が向けられるようになりました。


 その後の第三の波、いわゆるサードウェーブでは、豆の生産国だけではなく、地域、はたまた農園ごとの違い、またコーヒー豆の品種や加工方法の違いによって変わる味わいを楽しむという方向に行きました。その個性を活かすために浅煎りが好まれるようになったのも特徴です。コーヒーが地場産業としてしっかり確立するために、トレーサビリティ(追跡可能性)やサステナビリティ(持続可能性)も重要視されてきています。


  うちの店でも、浅煎りのブク(エチオピア産)は人気ですね。ただ、今はサードウェーブの流れのピークは過ぎたところかなと感じています。僕はラインナップの中だとケニヤの中深煎りが一番好きなのですが、コーヒーは嗜好品。お客様の数だけ好みのコーヒーというのが存在します。それぞれのお店の立地などでお客様の層も異なりますし、そういったニーズに応えられるようなところが、次の〈波〉を作っていくのではないかな…と個人的には思っています。」



 生のコーヒー豆を焙煎機に入れて、豆が煎られていくのを静かに待ちます。
 
「この時間が好きなんです。しばらくしてくると、豆がはぜ始めますよ」
 
 鈴木さんは目を細めます。


 

「〈コーヒーがある時間〉って、どんなイメージですか? コーヒーを飲みたくなる時って、どんな時でしょう」
 

 問い掛けられて、思いをめぐらせます。私の場合は、考え事をまとめたい時かしら。それか、ゆっくりおしゃべりしたい時ですね。


 

「そうですよね。お友達や大事な人との交流の時間の傍らに、さり気なくある。それがコーヒーのイメージだと思うんです。僕は、コーヒーは〈脇役〉だと思っているんですよ。〈主役〉でなくていい。誰かの大事な時間に、そっと寄り添える存在であればいいと思っているんです。


 その時々で、様々なシチュエーションがあると思うんですけど、シチュエーションに合わせて味わいを変える楽しみを、少しずつでも知っていっていただけたらいいなって思っています」

 

 鈴木さんは、穏やかに微笑みました。




「豆がはぜ始めましたね。最初の1ハゼでは、ポップコーンみたいに、ポコン、ポコンって音がします。次の2ハゼは、もっと乾いた軽い音。香りもしてきます。豆の産地が違うと、はぜる音も違ってくるんですよ。その音や漂ってくる香りで、焙煎がうまくいってるかどうかが分かります」
 
 焙煎機を見つめながら、鈴木さんは言葉を続けます。
 
「僕がバリスタを志したきっかけは、学生時代にスターバックスで働いた経験ですね。大学に入って、いろいろ悩んでいる時にバイトを始めたんですが、そこでコーヒーの仕事の魅力に出会えたんです。


 ああ、コーヒーって、人と人を繋ぐツールなんだな。そう気付けたことが大きかったですね。それから、いろんなお店で修行していって…。その中で、いまのオーナーお二方とも出会って、自分が目指したいお店の方向性も見えてきました。

 普段の生活の延長線上にあって、居心地よくいられる場所。〈そこにあると、いいことがある〉って感じでいられたらいいな、って思っています。…って言ってる間に、豆がいい具合に仕上がってきましたね。ここからは、作業に集中していきます」




 
 焙煎の終わった豆が勢いよく流れ込み、機械の中でぐるぐると回りながら冷めていきます。鈴木さんは真剣な面持ちで、色の薄い豆、不良の豆を素早く選り分けていきます。そして、濃い褐色に仕上がったコーヒー豆を、紙袋に入れていきます。



 
「よければ、焙煎されたての豆を飲んでいきませんか?」
 
「いいんですか?」
 
「このグァテマラは中深煎りなので2〜3日経った方が、味が落ち着いて甘さとかも出てくるのですが、焙煎したてのちょっとワイルドな感じを楽しんで頂ければ。」
 


 鈴木さんはいつもの慣れた様子で、カウンターで支度を始めます。
 

「ハンドドリップでは、3回に分けてお湯を注いでいくのが美味しくなるポイントです。最初に豆を少し蒸らしてあげます。それから、お湯が全体に行き渡るように、大きく〈の〉の字を書くように注ぎます。それを段々と小さくしていきます。直接フィルターにかけるのはNG。お湯を注ぐのを3回に分けると言っても、味わいは最初の2回で決まります。最後の1回は量の調整といったところですね。最後はちょっとお湯が余るくらいで。注ぎきってしまうと、雑味がカップの中に入ってしまうんです。…さあ、どうぞ」

 
 グァテマラの香りは華やかで、まるで葡萄のよう。シャープで深い味わいが、じんわりと染み込んでいきます。目を閉じて、ゆっくり味わいました。
 
 

「MIDDLE GARDEN が駒込に出来たのは、2019年の9月。まだまだ、新しいお店です。でも、年代の近いオーナーお二人と一緒にメニュー開発とか、コーヒーのことを話していると、とても楽しくて、常連さんには『3人、なんだか部活みたいだね』って言われたりもします。確かにそんな感覚ですね。大人のコーヒー部。僕自身、とても居心地のいい場所です。


 あとは普段の営業だけでなく、新しい試みもやっていきたいですね。今年の春からは、ヨガ教室も始めていたんです。お客様にも、すごく喜んで頂けました。インストラクターの方は普通にお客様として来店されて、お店のことを大変気に入って頂いて、実現したイベントです。参加者の中に常連のお客様がいらっしゃったり…先程お話しした〈人と繋がる〉ということが形になったなと実感できました。


 他にも、Instagramでお知り合いになったジャズオルガニストの方からも、何か一緒にできるといいですねってお話も頂いているところです。駒込に新しいコミュニティを作っていけたら嬉しいですね。もちろん、その側にはさりげなくコーヒーがある、ね。」


 

 確かな未来を静かに見据えながら、鈴木さんは柔らかく微笑みました。




 MIDDLE GARDEN COFFEE STAND では現在、シングルオリジン400g以上からの受注焙煎を受け付けておいでです。通販の体制が整うまでは、お店に直接引き取りにいくことが必要ですが、お近くの方はぜひ。



 鈴木さんの今後のますますのご活躍、そしてMIDDLE GARDEN COFFEE STANDのますますのご発展をお祈りしております。



(文:藤野沙優)





(店舗情報)

MIDDLE GARDEN COFFEE STAND

ミドルガーデンコーヒースタンド

〒114-0024

東京都北区西ヶ原1-56-11 1F

TEL:03-5980-8685

http://www.middlegarden.jp/

Twitter:@garden_middle

Instagram:@middlegardencoffeestand





Human Interview

「ヒューマンインタビュー」では、 いまを懸命に生きる方々の 〈声〉をお届けしていきます。

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