ういういしさと、内なる物差しと共に ── 「くらしの雑貨店 もくもくいし」相馬ともみさん


 ヒューマンインタビュー第11回は、「くらしの雑貨店 もくもくいし」の相馬ともみさん。

相馬ともみ


徳島県生まれ 東京都品川区在住 夫と娘、息子の4人暮らし


住宅メーカー・設計事務所でインテリアや図面の仕事に就く

結婚・出産後、8年間の専業主婦を経て、雑貨店で6年間パート勤務

2016年11月 くらしの雑貨店もくもくいし online shopをopen

2018年7月 戸越銀座商店街に実店舗をopen



 さまざまなメディアでも取り上げられることの多い戸越銀座商店街で、「もくもくいし」という可愛らしいお名前のお店を経営される相馬ともみさん。お店の名前は、「木」と「石」が由来とのこと。お店では、暮らしにそっと優しく寄り添う器や、丁寧に作られた台所道具などを中心に扱われています。


 筆者は戸越銀座に仕事でお伺いすることが多いのですが、商店街を通る度にずっと「もくもくいし」さんの優しく凛とした佇まいが、ずっと気になっていました。偶然立ち寄った際に拝見した店内は、思っていた以上に気持ちのいい空間。すっかりファンになってしまいました。


 2016年にオンラインショップを開設され、2018年に念願の実店舗を開かれた相馬さん。その道筋をお伺いしました。




「戸越銀座で、自分のお店をやりたい」

「子供が小さい時には不動前のマンションに住んでいたのですが、戸越銀座にはよく自転車で買い物に来ていました。その時に『あ、この街いいな……』という気持ちが湧いてきたのを、今でもよく覚えています。


 下の子が小学生に上がって時間に少し余裕が出来たこともあり、雑貨屋さんで働き始めました。生活雑貨を扱うお店で、ナチュラルな風合いの可愛らしい雑貨の多いお店でした。その時に、販売や接客のお仕事の楽しさも知りました。


 その後、子供が大きくなってきてマンションが手狭になり引っ越そうとなった時に、『戸越銀座で暮らしたい』って気持ちが強く湧き上がったんです。家族の中で、私ひとりだけ『戸越銀座しかない!』って言っていましたね(笑)。そして、念願かなって、家を建てて引っ越すことに。


 ちょうど引っ越しの話が出始めた頃から、子育てが落ち着いた10年後の自分がどうありたいかを考えはじめ、いつかお店をやりたいな、という漠然とした気持ちが生まれてきました。そして、この街に引っ越してきてから想いが少しずつ膨らんで、現実的になってきたんです。


 下の子が中学校に上がり、さらに時間と心に余裕生まれたタイミングで、『やっぱり、大好きな戸越銀座で自分のお店をやりたい!』という思いが押さえきれなくなって、6年間お世話になった雑貨店を辞めて、少しずつ準備を始めました」



 そう言って、爽やかに笑いながら、辿ってきた道のりを振り返る相馬さん。さらりとお話される中にも、このお店を作るまでの原動力となった熱い思いが伝わってきました。




自分だけの物差しを作っていく時間


「開店するにあたって、お店づくりはとても楽しいものでした。家具選びやレイアウトは、結婚前にインテリアの仕事をしていた経験が生かされているのかもしれません。


 インテリアの仕事に進んだきっかけ……そうですね、そもそもの始まりは、中学の頃に実家が建て替えをしたことかもしれません。その時に自分の部屋を作ってもらったのですが、内装を好きに選んでいいと言われ、カタログを隅から隅まで見て、選んでいくのがすごく楽しかったです。床は無垢の木材がいいとか、壁は漆喰にしてほしいとか……。それを叶えてもらえて出来上がった自分の部屋はとっても心地よくて。机の横に備え付けの棚があったのですが、そこには大好きな雑貨を飾って、たまに模様替えするディスプレイコーナーにしていました。部屋の中でも、一番お気に入りの空間でした。懐かしいです。


 その後、高校を卒業して上京し、ひとり暮らしをしたのですが、その時も部屋のインテリアやモノ選びにこだわりました。今も昔も、ずっと一貫してナチュラルなテイストが好きなのですが、例えば木の丸テーブルにしてカフェ風にしてみたり、食器やタオルなどの生活雑貨も自分が本当に気に入ったものだけで揃えました。


 そうした原体験があって、何が好きで、何が心地いいのかという、自分の中の物差しが少しずつ出来上がっていくにつれて、『インテリア=暮らしにこだわることって大切』って気持ちが深まっていったのでしょうね。そんな素地があって、自然とインテリアの仕事を選んだように思います。


 お店を作るにあたっては、雑貨店での経験も大きなものでした。そこで、『あ、自分、接客って好きなんだ』って気付いたんです。だから、オンラインショップだけで完結させるつもりは、最初からありませんでした。扱う商品が1点1点異なる手仕事のものでしたし、生活の中で使っていただく実用品だからこそ、実際に手にとって、選んでいただくという楽しみを大事にしてもらいたかったんです」



 時間をかけてゆっくりと、ご自身の物差しを育ててこられた相馬さん。相馬さんの心の物差しで測られ、デザインされた「もくもくいし」の静かな美しさの秘密を、垣間見た心持ちになりました。



作家さんとの絆


 相馬さんのみずみずしい感性で飾られた「もくもくいし」の空間はどこか懐かしく、窓ガラスから差し込む光がよく似合います。並ぶ器はすべて、信頼関係を結んだ作家さんの作品。作家さんとの出会いについて、相馬さんはこう語ります。



「実店舗をやりたいという気持ちはずっとありましたが、まずはオンラインショップからのスタート。作家さんとのご縁も、各地のクラフトイベントや展示会に足を運ぶところから、開拓を始めました。


 最初に行ったのは益子の陶器市。様々なブースを見て、作家さんにご挨拶をして、これからオンラインショップを始めようと思っているんです、とお話をするところからのスタートでした。


 その時の作家さんの反応は色々でしたね。『お店ができてから来て』という方もあれば、『応援します。ぜひ一緒にやりましょう』とおっしゃってくださる方もおいででした。『いつか実店舗を出したいです』という言葉を信じてくださった方々とは、今も強い絆で結ばれているように思います。


 作品って、その人となりが出ているような気がします。お人柄も。まあるい柔らかい人は、やっぱり柔らかい空気の器を作られるんです。私は温かみがあってとがってないものが好きなので、自然とお店にも柔らかい雰囲気の器が揃ってきましたね。


 会って、お話をして、器を手にとって、そしてわかりあえる瞬間があって……。そういう中で、ご一緒に過ごしていて気持ちのいい人は、使っていても気持ちのいいものを作られると感じます。


 その中で、印象深い方ですか? そうですね、どの方も大事で特別ですが、しいて挙げるとなると、おふたりおいでです。初めて、お取り扱いをご承諾くださった方と、この店と戸越銀座をつないでくださった方ですね」



高台付の白い器。しっとりと手に馴染みながらも、凛とした佇まいです。




「初めて、器を取り扱わせていただくお約束をしたのは、宇都宮の女性の作家さん。実店舗もなければ、オンラインショップもまだ準備中で、まだ何も形になっていない個人からの声掛けに、『私の作品でよければ喜んで』って優しい笑顔でおっしゃってくださって。もう、感激して、泣きそうになりました。その時からその方とは、今も変わらずにご縁が深まっています」



深い色合いの、柔らかいフォルムの器。どっしりとした重厚な存在感の中にも、優しさが潜みます。




「そして、もうひとりの方は、『もくもくいし』と戸越銀座をつないで下さいました。物件がなかなか見つからなくて、いろいろな方に相談していたのですが、その時に『私の前の職場の先輩が、戸越銀座でお店をやってるから、訊いてみようか?』とおっしゃってくださって。そして、solcoの店主の田中園子さんとつないでくださったんです。そして、園子さんから様々なご助言をいただき、また戸越銀座商店街の方ともつないでいただき、そのご縁がもとで、こうしてここにお店を開くことが出来たんです。本当に、感謝しています」



 様々な方々とのご縁が、水彩画のグラデーションのようにじんわりと重なり合って、戸越銀座商店街に生まれた「もくもくいし」。今は商店街にしっとりと馴染み、静かに優しく息づいています。




これからの「もくもくいし」


 去る3月には、企画展「おいしい道具展」を開催された相馬さん。「もくもくいし」の実店舗を開店してからの企画展は、実に十数回を数えるそうです。



「1~2か月に1回のペースで展示会やワークショップなどのイベントを開催しています。いろんなお客様に何度も足を運んでいただくために、今後も続けていきたいですし、新しいことにもチャレンジしたいと考えています。


 展示会は、生活の中での使用場面を大きく切り取ったテーマの企画展からスタートしました。そのうちに、お客様から『こういうもの、ないかしら?』などのお問い合わせやリクエストなどをいただくようになり、そんなお声に応える形で、企画展『カレーと丼の昼ごはん』を開催したことも。ピンポイントな企画でしたが、お客様からも好評をいただきました。


 3周年を迎える今年は、これまでとは違った切り口での企画展を考えています。例えば『器』そのものに焦点を絞ったもの。釉薬の表情や、器の景色など、焼き物の本質に迫っていけたら……と考えています。器以外にも道具や装身具だったり、布や竹、木や金属などの素材だったり、作り手の方、作業工程、日本以外の手仕事ものなどにもスポットを当てた展示もやってみたいです。


 また、戸越銀座でお店を始めてから、この街を通して少しづつ人との繋がりも増え、ご縁も広がってきました」



「そうしたご縁から『とごしぎんざの箸置き』が生まれ、〈とごしぎんざブランド〉としてこの春から発売開始しました。戸越銀座で生まれ育ったアーティストの亀井武彦さんが手がけたとごしぎんざマークを元に、戸越銀座在住の陶芸家シマムラヒカリさんが作る、まんまる笑顔の箸置きです。


 最近では展示会のDM用写真を、戸越銀座にご縁の深い写真家の八木香保里さんにお願いして、写真を撮っていただいています。それまでは自分で写真撮影をしていたのですが、写真の佇まいが違うんですよね。いつもの器や道具も違って見えるようです。


 これからも繋がったご縁を大切に、ものを売るだけのお店ではなく、人と人が繋がり、そこから何かが生まれるような場所を目指していきたいです。


 そのためにも、いつかゆっくりお茶を飲んでおしゃべりができる空間やワークショップをできるお部屋もあれば、さらにはもっと広い展示スペースも……っていう気持ちも胸の中に浮かんできたり。でも、無理に大きくしていこうとは考えていなくて。気張らず、気持ちよく、自然に、長く続けていきたいですね」



「いつか、アーティストの亀井武彦さんがいらしてくださった時に『ここは、いつ来てもういういしいねえ』って、おっしゃってくださったんです。新人らしいってことかしら?って思っていると、そんな気持ちを察したかのように『”ういういしい”っていうのはね、いつ見ても並んでいるモノや空間が新鮮で、みずみずしくて、淀んでいないってことなんだよ』って解説してくださって。


 その時の”ういういしい”って言葉を、ずっと忘れられずにいます。おばあちゃんになってもこの店をやっていたいけれど、ずっと”ういういしい”ままでいたいですね」



 そして、相馬さんは柔らかく微笑みました。まるで春を告げる南風のようなういういしい感性と共に、「もくもくいし」を大事に育ててこられた相馬さん。ご自身の内なる物差しと共に在り続けてきたその姿は、相馬さんが愛する器のように柔らかく、そして凛としていました。





 相馬さんの、ますますのご活躍を心よりお祈りしております!







くらしの雑貨店もくもくいし

〒142-0042 東京都品川区豊町1-4-12 1F

open 12:00-18:00 close 月・火曜定休+不定休あり

tel&fax:03-6421-6710

mail : mokumokuishi@gmail.com

onlineshop: https://mokumokuishi.com

instagram :https://www.instagram.com/mokumokuishi/




(文:藤野沙優)




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