「歌う喜び、明日の楽しみ」──川合ひとみさん、小林由樹さん、木下志寿子さん座談会
左上から、バリトン・小林由樹さん、メゾソプラノ・川合ひとみさん。左下から、コレペティトール・木下志寿子さん、筆者。
2020年のコロナ禍では、多くの音楽家が影響を受けました。それは私たちもまた同じ。その状況下で出来ることを探りながら、来年に予定されたこの本番を心のよすがにしていました。
合わせの日程も近づいてきた12月のある日、オンラインで座談会を開催しました。
──今日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございます。皆様との「二期会サロンコンサート Vol.208 歌う喜び、明日の楽しみ」が、いよいよ来月に近づいてきました。
現在の状況を受けて、本来の前後半のプログラムから、60分休憩なしのプログラムへの変更もありましたが、皆様の魅力がより伝わるプログラムになったのではないかとも感じています。
今日は、皆様が歌われる曲目や、お客様へのメッセージをお伝えできればと思います。
まずは、川合さん、お願いします。
川合さん
「今回の『歌う喜び、明日の楽しみ』は、オペラアリア・重唱のコンサートという形になりました。この中でも、私はオペラの〈重唱〉を出来るというのが、とても嬉しくて…。
オペラってやっぱり、ひとりでは出来ないものだし、様々な方々のお力が集まった上での総合芸術なんだな、ってことを改めて感じる日々を、ずっと送っていましたね。この一年、オンラインでの活動も多くなりましたが、やっぱり人と一緒にやりたいな、っていう気持ちは強まる一方でした。歌手の皆さんって、すごく引き出しが多いから、『こうくるの?そしたら、私はこうするね!』っていう、その場でのやり取りがすごく楽しいんですよね。
小林さんとご一緒させていただく、ロッシーニの『セビリャの理髪師』の二重唱は、そうした意味でも、とても楽しみです。舞台経験豊かな小林さんだったら、この場面ではどうなさるんだろう?とか、今からとてもワクワクしています。
藤野さんとご一緒の、ベッリーニの『ノルマ』の二重唱も、とても楽しみです。実は、私が学部3年生の時に合唱で参加した芸大オペラで、モーツァルトの『皇帝ティートの慈悲』でヴィテッリアを演じていたのが藤野さんでした。その時から身近な憧れの先輩だったので、こうしてご一緒する機会が本当に嬉しいです。なので、お二人からは様々な技を盗もうと思っています(笑)
そして今回、イタリアオペラをたくさん歌わせていただけるのが、自分にとっても嬉しくて。特に、ロッシーニの『チェネレントラ』は、ドイツでもたくさん歌わせていただいた思い出の役なのですが、実はイタリア語で披露するのは初めてなんです」
木下さん
「えっ、ドイツではドイツ語上演だったんですか?」
川合さん
「そうなんです。ドイツ語で歌ってました」
木下さん
「それは、口が忙しそう…!」
川合さん
「そうなんです(笑) 5重唱とか6重唱になると、あちこちからシュトゥ!とか、シュパ!とか聞こえてきて」
小林さん
「不思議な感じだなあ(笑)」
川合さん
「ほんとに(笑)だから、ようやくイタリア語で披露がかなって嬉しいです。
あと、モーツァルトの『フィガロの結婚』からは、ケルビーノのアリアを歌います。なぜだかマルチェッリーナを演じる機会を多くいただくのですが、『あれ…私、ケルビーノじゃないのかな?』と、いつも思っていて。ドイツだと、ズボン役へのイメージが、日本とは違うんですよね」
木下さん
「リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』のオクタヴィアンなんかも、ドイツだとすごく長身の方がなさいますよね」
川合さん
「そうなんです。日本では、ズボン役って〈少年〉的で、中性的なイメージが求められていますが、ドイツだと〈青年〉のイメージなんですよね。むしろ、男性的。だから、長身で脚も長くて…って方が選ばれやすいんです」
木下さん
「でも、川合さんも、とても似合いそうですよね」
川合さん
「竹馬はかなきゃ(笑) 冗談はさておき、これからはケルビーノや、オクタヴィアン、また『ナクソス島のアリアドネ』の作曲家とかを演じられる機会も巡って来るといいな、と願います」
──ありがとうございます。川合さんのズボン役もぜひ拝見したいです!
続いて小林さん、お願いします。
小林さん
「僕は、このお話をいただいた時から、おふたりの女性を支えて、サポートしていく役割を果たしていこうと決めていたんです。だから、たとえばメインディッシュになりやすい『椿姫』のジェルモンのアリアとか、『カルメン』の闘牛士の歌とかは、やめておこうと決めていました。おふたりの美しい女性を讃えるような…そんな曲を選ぼうと思っていたんです。
その中で考えて選んだ1曲めのアリアが、ドニゼッティの『ドン・パスクァーレ』のマラテスタのアリア。披露するのは初めてなんですが、ずっと歌いたいと思っていたマラテスタをようやく歌えて、とても嬉しいです。
もう1曲のアリア、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』のセレナータは、思い出の歌。けれどこれも、さっきの川合さんと同じく、イタリア語で披露するのは初めてなんです。これまでずっと、日本語で歌い続けてきたんです。だから、これも新しい挑戦ですね。
二重唱は、どちらも大好きな作品。ロッシーニの『セビリャの理髪師』のフィガロも大好きだし、ヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』のルーナ伯爵は憧れの役ですね。全幕通しではなく、部分ごとにご縁のある役ですが、昔からの憧れの役をできて嬉しいです」
──『イル・トロヴァトーレ』、私も大好きな作品なので、とても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!
小林さん
「ひとつ、提案なんですが、いいですか?」
──はい、お願いします。
小林さん
「ソーシャルディスタンスの問題もあるので、重唱にあたっては、歌っている人同士が見合うのではなく、往年の名歌手たちがそうであったように、音楽を重視して、正面を向いて表現するということではいかがでしょうか」
川合さん
「賛成です!」
木下さん
「それがいいですね」
──私も、大賛成です。今回の重唱は、お互いに向き合って演技をするのではなく、音楽を重視して表現していきましょう。
それでは、演奏を支えてくださるオーケストラを担当してくださる木下さん、どうぞお願いいたします。
木下さん
「今回、オペラが中心のコンサートってことが、自分にとっても嬉しいことなんです。歌曲ももちろん大好きなのですが、普段オペラに携わっている時間が長いので、オペラを弾いていると、自分自身が元気になってくるんですよね。
小林さんとは新国立劇場の『ばらの騎士』をはじめとしてドイツオペラ、藤野さんともワーグナーをはじめドイツオペラをご一緒する機会が多かったので、今回のようにイタリアオペラ、それもベルカントが中心のプログラムというのは、とても新鮮です。
川合さんとははじめましてですが、お話をお伺いしているだけでも、ご一緒にアンサンブルを出来ることが、今からとても楽しみです!」
──ありがとうございます!
それでは、お三方から、お客様へのメッセージをお願いいたします。
川合さん
「コロナの影響で、プログラムは短縮版となりましたが、その分ぎゅっと濃厚に凝縮したので、お尻がいたくなる前に終了すると思います(笑)
お見送りはかないませんが、会場で皆様にお目にかかれますことを楽しみにしております!」
小林さん
「凝縮された時間、凝縮された音楽の引き起こす、〈生〉の化学変化をお楽しみください!」
木下さん
「コロナ禍のあいだ、ひとりで伴奏を録音するというお仕事もしていたのですが、歌なしでひとりで弾いたときに、普段どれだけ歌い手の皆さんから刺激をいただいていたか、どれだけご一緒に音楽をつくっていたかということに、改めて気づきました。
小林さんがおっしゃってくださいましたように、この化学変化を楽しんでいただければ幸いです」
──ありがとうございました。皆様に、会場でお会いできますことを、心より楽しみにしております。
「二期会サロンコンサート Vol.208 歌う喜び、明日の楽しみ」の公演概要は、以下の通りです。
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二期会サロンコンサート Vol.208
歌う喜び、明日の楽しみ
日時:2021年1月28日(木)16:30/19:00開演(開場は、各回開演の30分前)
※同内容、2回公演。客席を半数に減らし、休憩なし、1時間のプログラムです。
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-1 東京メトロ表参道駅 A1出口すぐそば
Tel: 03-3409-2511 Mail: omotesando@kawai.co.jp
アクセスマップは、こちら
出演:
藤野沙優(ソプラノ)、川合ひとみ(メゾソプラノ)、小林由樹(バリトン)
木下志寿子(ピアノ)
演奏予定曲目:
■R.ワーグナー作曲 オペラ『ローエングリン』より
「暗くさびしい日々の中で(エルザの夢)」(藤野)
■G.ロッシーニ作曲 オペラ『ラ・チェネレントラ』より
「悲しみと涙のうちに生まれ」(川合)
■G.ドニゼッティ作曲 オペラ『ドン・パスクァーレ』より
「天使のように美しい娘が」(小林)
■V.ベッリーニ作曲 オペラ『ノルマ』より
「ご覧なさい、ノルマ」(藤野・川合) …他
※曲目は変更になる場合もございます。
チケット:
全席指定(各1回券・税込)
一般 3,500円 愛好会 3,300円
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チケットのお申し込みは、
もしくは、二期会チケットセンター 03-3796-1831まで。
(平日10:00~18:00/土曜10:00~15:00/日祝休業)
お待ちしております。
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